導入製品もしくはサービスについて
今回コエステーションを導入いただいた製品・システムの概要を改めて伺えますか。
オンライン車内アナウンス「AOIシステム」は、バス事業者様がweb管理画面から自由に車内アナウンスを変更したり、広告ご利用者様が申込サイトを通じてAOIシステムから出稿用音声を入稿することで、バス車内放送を自由に変更できるシステムです(下図参照、「音声管理システム」が該当)。アナウンスされる日時・場所・時間帯もサイトから指定することができます。コエステーションWebAPIは、打ち込んだテキストから出稿用音声を作成するためのAI音声合成エンジンとして導入しました。
従来のバスアナウンスにつきものだった「データ注入が大変」「アナウンス変更までに時間がかかる」「音声データ更新の外注費が嵩む」といった課題を一気に解決し、広告ご利用者様・バス事業者・乗客すべてにとって価値あるバスアナウンスを実現するシステムとして企画・開発しました。2024年に鶴見川崎臨港バス様で実証実験を行い、2025年6月から実用化に至っています。
※AOIシステムの詳細はこちらからご確認ください。
https://www.kmadsystem.jp/service/aoisystem/
※川崎鶴見臨港バス様での実用化リリースはこちら
https://www.ai-j.jp/topics/14359/

既存のバスアナウンスの課題とは?
既存のバスアナウンスの仕組みには、どんな問題があったのでしょうか。
既存のバスアナウンスは、更新にかかる労力過多のため広告ご利用者様にとって使いづらく、バス事業者さんにとっても柔軟な運用がしにくい状況にありました。バスアナウンスを更新するためにはメモリーカードに音声データを入れ、バス1台1台に人が手で注入する必要があったのです。つまり1,000台所有しているバス事業者さんなら、1,000台で人による作業が必要でした。例えば、夏の時期のエアコンが切れたバス車内で、この作業はとても過酷です。これは広告に限らず案内用の音声も同様で、その負担を考えるとデータの更新頻度は下がらざるを得ず、バスアナウンスはどうしても決まりきった内容を流すものになっていました。すると広告のタイムリーな活用や効果が見込みにくいため、出稿が増えない。出稿が増えないと広告収入も見込めませんから、バス事業者さんの収益に貢献することができません。
現在のバスはお年寄りや学生など、いわゆる交通弱者のための移動手段という側面を持っていますが、限られた人しか乗らない公共交通は、どうしてもそれを支える必要性が、経済的な事情に勝てない時があります。各地の人口が先細りになる中、バスをもっと地域住民全員にとって有用な空間にしたいというのが当初の発想でした。ちょっと大きな話になりますが、バス車内放送の仕組みを改善することで地域社会を活性化したかったんです。そのために、バスアナウンスの仕組みそのものを変えたいと考えていました。
課題を解決し、「すべての人のために」運行するバスへ
状況と課題が理解できました。それを解決する「AOIシステム」ですが、AOIとは何の略でしょうか?
AOIシステムは「Advanced Omunibus IoT System」の略称です。
「omnibus(オムニバス)」の語源は、 ラテン語の「omnibus」で、これは「すべての人のために」という意味です。19世紀にパリで導入された乗合馬車は「すべての人が利用できる」という意味で omnibusと呼ばれていたそうです。英語でもそのまま omnibusという言葉が広まり、 当初は乗合バスという意味で利用されました。そして、このomnibusが省略され、 わたしたちが現在使うbus(バス)という言葉になっています。
先ほども申し上げたように、現在のバスは交通弱者のための移動手段という側面があります。しかしやはり「すべての人に」利用してほしいというのが我々の願いです。私たちはAOIシステムによってそれをサポートしたいと考えています。
コエステーション導入の背景
音声合成によるアナウンスを検討された理由
「地域住民全員にとって有用な空間」を実現するためには、決まりきったバスアナウンスではなく、リアルタイムで有用な情報を流せる仕組みが必要だと考えていました。しかしナレーターによる収録ではリアルタイム化の実現が不可能なことは当初から分かっていました。どうしても発注、原稿受領、ナレーター収録、音声の調整…とステップが必要で、たとえオンライン化の仕組みが実現しても、ナレーター収録をしている限りは今日発注した広告を明日から流すわけにはいきません。
AOIシステムでは、例えば「〇〇停留所から徒歩2分のスーパーAで、今日17:00からキャベツのタイムセールを行います」というような限りなく日時・地域に密着した放送を実現したいと思っていました。そのためにはやはり、広告ご利用者様がテキストを打ち込んだら即座に出稿用音声が作れる音声合成が必要だったんです。
コエステーション導入の決め手
導入の決め手としては、まず申し込みサイトに容易に組み込めるWebAPIが提供されていたことが大きいです。AOIシステムは個人商店の店主のような、ITリテラシーが必ずしも高くない方が広告ご利用者になることも想定していました。そのため素人が簡単に作成・入稿できるUIを設計することは重要な要件でした。色々な企業から合成用のエンジンは出ていますが、素人が直感的に触れるものではないですよね。音声データは出稿される広告ご利用者様の方が直接作成される場合も、弊社側で作成することもありますが、細かな調整が誰でも容易にできることは導入の決め手の一つです。
もう一つは、音声の品質が高かったことです。実は構想段階で提供いただいていた話者は一つ前のエンジンのものだったので、正直なところかなり違和感がありました。テキストから合成された音声そのままでは使えないので、アクセントなどを相当調整しないといけなかったんです。結構職人技というか、工夫が必要でした。
そこへ当時出来たてだった最新エンジンの話者(※AITalk6相当の新DNN話者)を持ってきていただいて、その品質に社内でも驚きました。テキストを打ち込むだけで自然な日本語で読み上げてくれる。これなら、広告ご利用者様にテキストを用意いただくだけでバスアナウンス用の音声が作れると思いました。
実際にお使いいただいてのご感想
バス事業者様からはとにかくデータ注入の作業負荷が減ったことを喜んでいただけました。音声に関しても大変自然だと言っていただいています。
川崎鶴見臨港バス様の場合、実証実験の段階では淡々と読み上げるのがいいだろうと抑揚のパラメータを0にしていましたが、実用化にあたって全音声の「抑揚」パラメータの数値を上げ、より人間らしい抑揚がつくようにしました。
広告音声データの作成も行う者としては、こういう操作が画面上で完結するのもコエステWebAPIのいいところだなと感じています。もし、ナレーター収録で同じことをしようとしたらすべて録りなおしです笑
また、ユーザーの皆様からはナレーター収録から音声合成に切り替えたことによるネガティブな声は上がっていません。マイナスがないということが、今回のような場合にはとても良い評価だと受け止めています。
御事業部のサービス紹介、今後の事業展開について
コエステーションを利用した貴社のサービスの今後展開について、現時点での展望をお聞かせください。
導入バス事業者様を増やすことは一つの目標ですが、実証実験や実用化のリリースをご覧になった会社からのお問い合わせはすでに増えています。現状のバス車内放送の課題を解決するものとして、今後緩やかに全国に広がっていくと思います。
また、AOIシステムを単なる車内広告ではなく、ローカルな情報をローカルに届ける地方公共サービスとして活用いただける形も構想しています。ローカルでタイムリーな情報を届けられるのがAOIシステムの長所ですし、路線バスは地域住民が生活に密着した用途で利用するものです。バスに乗ったらお役立ち情報が手に入るから、今日はあえてバスに乗ってみようかな、くらいの存在になったらいいですね。